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覚書話10
(覚書話6の続き)
(覚書話6の続き)
「全く! 人があれだけ真剣に話をしていたってのに、冗談なんて、それこそ冗談じゃないわ」
いや、それはこちらの台詞だから。
言ってもやっぱりスルーされる事は確実なので、一人、心の内のみで突っ込んでみる。
それが何だか虚しくなってちょっとと負い目をしてしまうが、目の前の女性がそれを許すはずもなく。
「ブルー……。貴方、私の話を聞いてる?」
「……聞いているよ」
漆黒の瞳に視線を合わせ、肯定する。
ここで「聞いていない」などと答えようものなら、何を言われるか分からない。
一刻も早く安眠を望むのならば、ここできちんと話を聞き、尚且つ終わらせておくのが一番である。
しかし、本当に。
(何故この話をここまで引きずらなくてはならないのだろう……)
幾度目かの疑問に溜息を零しつつ、大人しく彼女の話に耳を傾ける事とする。
「まぁ、ね。さっきまでの恐ろしくシリアス且つ現実的な問題点が提示された後での唐突な発言だったから。ビックリするのも仕方ないけど」
(いや、ビックリするというよりも、だから冗談なんだろう?)
言葉に出す事はしなかったが、もう一度心の中で繰り返す。
その気持ちが図らずも紅の瞳に現れていたのだろう。
沙羅がもう一度、一言一言区切るようにそれを否定する。
「ち・が・い・ま・す! 冗談じゃありません!」
「……本気かい?」
「本気も本気、大本気」
それでも信じられずに胡乱気に沙羅を見下ろすが、彼女の表情は真剣そのもの。
その表情に、ブルーも(いまだ少し疑いつつも)改めて沙羅の発言に対する事にした。
「僕の話をきちんと聞いていたかい?」
「当然」
「だとしたら、そういう発言が出てくるはずはないのだけれどね」
「普通はね。でも、私はほら、普通じゃないから」
――確かに普通じゃないだろう。
世間一般の――自分たちを異端者として扱う人間達からすれば、異能力を持たずとも、人よりずっと長く生き続ける彼女はそれだけで間違いなく『普通じゃない』。
ただし、彼女がどういうつもりで『普通じゃない』と自身を指していっているのか、その心持は分からない。
軽い口調とどこか楽しげな様子からすると、恐らくマイナスの感情で言っているわけではなさそうだが。
(まぁ、でも沙羅だから……)
自分とはまた違った意味で“自身”を偽る事を自然にやってのけてしまう彼女だから、見たままを素直に信じてしまうわけにはいかない。
その言動の中にどれだけのものを潜ませているのか。
そういえば…とふと思い出す。
彼女に対して深く突っ込んで聞いた事がなかったなと。
“異端である”という事について、そしてそれが故に迫害を受けている現実を彼女自身がどう思っているのかを。
周囲の者達が嘆くのを宥め、話を聞き、相槌を打つ。そうした姿はこれまでの300年近い年月の中で多々見かけたが、彼女自身の嘆きは一度として聞いたことがない。
自分でさえ、周囲の限られた人間だけとは言え、過去に見せた事があるというのに。
(壊れて、しまわないのだろうか……?)
溜め込みすぎた負の感情は深ければ深いほど精神を傷つける。
そうであるからこそ、人は無意識の防衛本能によって『言葉』としてまた『態度』でそれらを発散させ、負担を減らそうとする。
それをしないという事はすなわち。
(気にならないわけではないが……)
チラリと向けられた視線に、沙羅が「何?」といわんばかりに小首をかしげる。
その様子に小さく溜息をついて。
(言わないものを無理に言わせるのもどうかと思うし。言わせたところで私に何ができるとも思えない)
ならば、その点については一先ず聞かないでおこう。
もし彼女が自発的に口にしたら、その時はとことんまで聞いてあげればよい。
……最も、自分がそれまで生きていたらの話だが。
思考がまたもや別のところにいってしまっていたのを引き戻し、先ほどからの話題へと頭を切り替える。
「仮に子供を作ったとして、君は一人で育てなければならない事になる。そんな無責任な事ができるはずないだろう?」
子供は可愛いと思う。
先が分からない状態ならばともかく、間違いなく未来が見えている今の自分にとって、それは親として酷く無責任なことだ。
それに自分の血を引く子供など、考えたこともなかったから。
「無責任、か。それを言われちゃうと私も困るんだけど」
(他人事じゃないし、ね)
胸の内で呟く。
無責任なのは自分も同じ。
でも最期を見届ける事はできるはず。
一緒に生きられるのはそう長い時間じゃない。
(……なんて、予め思っている時点で、私はブルー以上に親になる資格はない気がするけど)
ともかくも。
「返事は今すぐじゃなくていいわ。私の方も少し調整をしなくちゃいけないし……。とりあえず考えておいて」
「でもあまり時間はないから。なるべく早めに返事、お願いね」と言い添えて踵を返してしまう。
時間がないのは『ブルーに』だろうと確信しながら、ブルーは曖昧に微笑んで。
遠ざかる彼女の後姿に、迷うように紅の瞳を揺らした。
いや、それはこちらの台詞だから。
言ってもやっぱりスルーされる事は確実なので、一人、心の内のみで突っ込んでみる。
それが何だか虚しくなってちょっとと負い目をしてしまうが、目の前の女性がそれを許すはずもなく。
「ブルー……。貴方、私の話を聞いてる?」
「……聞いているよ」
漆黒の瞳に視線を合わせ、肯定する。
ここで「聞いていない」などと答えようものなら、何を言われるか分からない。
一刻も早く安眠を望むのならば、ここできちんと話を聞き、尚且つ終わらせておくのが一番である。
しかし、本当に。
(何故この話をここまで引きずらなくてはならないのだろう……)
幾度目かの疑問に溜息を零しつつ、大人しく彼女の話に耳を傾ける事とする。
「まぁ、ね。さっきまでの恐ろしくシリアス且つ現実的な問題点が提示された後での唐突な発言だったから。ビックリするのも仕方ないけど」
(いや、ビックリするというよりも、だから冗談なんだろう?)
言葉に出す事はしなかったが、もう一度心の中で繰り返す。
その気持ちが図らずも紅の瞳に現れていたのだろう。
沙羅がもう一度、一言一言区切るようにそれを否定する。
「ち・が・い・ま・す! 冗談じゃありません!」
「……本気かい?」
「本気も本気、大本気」
それでも信じられずに胡乱気に沙羅を見下ろすが、彼女の表情は真剣そのもの。
その表情に、ブルーも(いまだ少し疑いつつも)改めて沙羅の発言に対する事にした。
「僕の話をきちんと聞いていたかい?」
「当然」
「だとしたら、そういう発言が出てくるはずはないのだけれどね」
「普通はね。でも、私はほら、普通じゃないから」
――確かに普通じゃないだろう。
世間一般の――自分たちを異端者として扱う人間達からすれば、異能力を持たずとも、人よりずっと長く生き続ける彼女はそれだけで間違いなく『普通じゃない』。
ただし、彼女がどういうつもりで『普通じゃない』と自身を指していっているのか、その心持は分からない。
軽い口調とどこか楽しげな様子からすると、恐らくマイナスの感情で言っているわけではなさそうだが。
(まぁ、でも沙羅だから……)
自分とはまた違った意味で“自身”を偽る事を自然にやってのけてしまう彼女だから、見たままを素直に信じてしまうわけにはいかない。
その言動の中にどれだけのものを潜ませているのか。
そういえば…とふと思い出す。
彼女に対して深く突っ込んで聞いた事がなかったなと。
“異端である”という事について、そしてそれが故に迫害を受けている現実を彼女自身がどう思っているのかを。
周囲の者達が嘆くのを宥め、話を聞き、相槌を打つ。そうした姿はこれまでの300年近い年月の中で多々見かけたが、彼女自身の嘆きは一度として聞いたことがない。
自分でさえ、周囲の限られた人間だけとは言え、過去に見せた事があるというのに。
(壊れて、しまわないのだろうか……?)
溜め込みすぎた負の感情は深ければ深いほど精神を傷つける。
そうであるからこそ、人は無意識の防衛本能によって『言葉』としてまた『態度』でそれらを発散させ、負担を減らそうとする。
それをしないという事はすなわち。
(気にならないわけではないが……)
チラリと向けられた視線に、沙羅が「何?」といわんばかりに小首をかしげる。
その様子に小さく溜息をついて。
(言わないものを無理に言わせるのもどうかと思うし。言わせたところで私に何ができるとも思えない)
ならば、その点については一先ず聞かないでおこう。
もし彼女が自発的に口にしたら、その時はとことんまで聞いてあげればよい。
……最も、自分がそれまで生きていたらの話だが。
思考がまたもや別のところにいってしまっていたのを引き戻し、先ほどからの話題へと頭を切り替える。
「仮に子供を作ったとして、君は一人で育てなければならない事になる。そんな無責任な事ができるはずないだろう?」
子供は可愛いと思う。
先が分からない状態ならばともかく、間違いなく未来が見えている今の自分にとって、それは親として酷く無責任なことだ。
それに自分の血を引く子供など、考えたこともなかったから。
「無責任、か。それを言われちゃうと私も困るんだけど」
(他人事じゃないし、ね)
胸の内で呟く。
無責任なのは自分も同じ。
でも最期を見届ける事はできるはず。
一緒に生きられるのはそう長い時間じゃない。
(……なんて、予め思っている時点で、私はブルー以上に親になる資格はない気がするけど)
ともかくも。
「返事は今すぐじゃなくていいわ。私の方も少し調整をしなくちゃいけないし……。とりあえず考えておいて」
「でもあまり時間はないから。なるべく早めに返事、お願いね」と言い添えて踵を返してしまう。
時間がないのは『ブルーに』だろうと確信しながら、ブルーは曖昧に微笑んで。
遠ざかる彼女の後姿に、迷うように紅の瞳を揺らした。
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