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日々の戯言など
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覚書話5




「好き、です。今、付き合ってる人はいないって聞きました。だから。もし、良ければ。私と、付き合って下さい」
「……ごめん」

僕の言葉に、スカートを掴んでいた彼女の手が、一瞬びくりと震えた。

「ごめん。気持ちは、とても嬉しいよ。でも、ごめんね?」
「好きな人が、いるんですか?」

俯いたままの彼女が、震える声で何とか言葉を紡ぐ。

含まれるあまりの悲しさに切なさに、こちらまで辛くなるけれど。
断る僕までが辛いなんて、そんな事、思ってはいけない。
本当に辛いのは、今、目の前でありったけの勇気を振り絞ってくれている彼女の方、なのだから。
だから、問いかけにもせめてきちんと向き合いたくて。

「いるよ」

肯定する。

「どんな人、ですか?」
「……とても奇麗な人だよ。ずっと、昔から好きだった。現在も、そして、これからも、きっと」

嘘偽りない僕の真実。

「今、その人はここに?」
「いや。今はいないよ」
「そう、ですか」
「うん」

落ちる沈黙は、彼女の心を少しでも和らげてくれるだろうか?
そう思い、あえて次の言葉をこちらから発する事なく、ただ、待つ。

どれくらい経ったのか。
彼女が一つ深呼吸をする音が聞こえてきた。
そして、顔を上げて。

「ごまかさずに答えて下さって、ありがとうございました。
 ……その人の事、大切にしてあげて下さいね」

こちらを見上げる彼女の瞳は涙に潤んで。
傷付いている事は明白なのに。
それでも精一杯笑顔を作ってくれる彼女に、応えられない僕が出来る事なんてあるはずもなく。

「ありがとう」

僕を好きになってくれて。
勇気を出してくれて。
見知らぬ誰かの事を思ってくれて。

「ありがとう」

ただ繰り返して。
一礼して走り去る彼女の後姿を黙って見送った。


「――でもね。
 大切にしたいけれど。
 でも、彼女はもう、遠い人、なんだよ」


頭上に広がる蒼に、いつか見た同じ色を重ねて。
小さく呟いた。





ねぇ、沙羅。
2度目の転生を果たしたにも関わらず、他の何を忘れても、君の事だけを覚えている僕は。
変わらず君の事を想っている僕は。
何て、愚かなのだろうね。


――もう、2度と会えないと、解っているのに――
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