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日々の戯言など
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覚書話 7

「それで、こいつったらその時さぁ……」
「おまっ! それは黙ってろって言ったろ!?」
「あーはいはい。サムは黙ってて」
「そーそー。面白そうな話はやっぱり聞きたいしねぇ?」
「あはは」
「さぁ、続き続き~~」

わいわいと賑やかしく通りを歩く数人の少年達。
彼等が身に付けている同じ色、同じ型の制服はこの都市でも有数の名門校のものである。
卒業生の中から政治・経済のトップに立つ人間を多く輩出しているその学校は、反して意外に自由な校風でも知られていた。
学内は全て生徒達が一切を管理しており、教師達はあくまでも生徒達の良き相談相手であり、補佐役である。
上から押さえ付け押し付ける者がいない事もあり、堅苦しさのない伸び伸びとした学校生活を送る事ができる。
ただ、その事により生徒一人一人に求められる“自己責任”は確かにあるが、それでもその“自由さ”を求めてやってくる生徒達は後を絶たず、都市内外でも人気の高い学校となっている。
最も、偏差値は高いのでちょっとやそっとの学力では中々入学できないのも事実ではあるが。
ともかく、彼等はそこに在籍している学生であり、今は学校帰りなのだとその様子から伺い知れる。

彼等の話は尽きる事がないらしく、次から次へと話題が変わりながらも続いていく。
そんな中、一人の少年が音もなくふと立ち止まった。
陽射しを受けて輝く金の髪とエメラルドの瞳。
少年達の中でもひときわ目を引く鮮やかで明るい色彩の少年だ。
何かを確かめるようにじっと前方を見つめる彼に気付いた少年――先ほど“サム”と呼ばれていた彼だが――が声を掛けた。

「どうした、ジョミー?」

訝しげにその横顔を見やるも、掛けられた当の本人からは何の反応も返ってこない。
すると立ち止まってしまった二人に気付いたのか、彼等よりも少し前を歩いていた他の者達も立ち止まり、それぞれがジョミーと呼ばれた金の髪の少年に声を掛け始めるが、やはり返答はなく。
彼等は互いに顔を見合わせて肩を竦めた。
そして、諦めたように溜息一つ。

「またか」
「みたいだな」
「しょうがねぇなぁ、ジョミーは」

苦笑へと変わる。

ジョミーには時々こういう事があった。
道の途中で、どこかへ遊びに行った時に、初めて会うはずの人に。
突然、それまでの行動全てを停止して、何かを確認するかのように。
辺りを見回したり凝視したり。
ただ、それはいつもほんの一瞬の事で、すぐに「ごめんごめん」と照れたように笑う。
最初は何事かと驚いたものだが、慣れてしまえばなんて事もなく、「ああ、またいつものやつか」で終わってしまうようになる。
当然、今回も同じ様に皆は考えていたのだが、何時まで経ってもジョミーは戻ってこない。
流石に心配になったサムが彼の肩を叩いて注意を引こうとするが、反応はやはりない。
彼はただ一点だけを見つめ続けている。
何が彼の意識を捕らえ続けているのかと興味を覚え、それぞれがジョミーの視線を追えば、数メートル先に一人の女性の姿を見出した。

飾り気のない清楚な薄蒼のワンピースに陽射し避けの白い傘。
顔は傘で隠れてよく見えないが、スッと伸びた姿勢のよさとワンピースの色合いもあって酷く清廉なイメージを受ける。
だが、何故そこまでジョミーがこだわるのかまでは解らず、首を傾げてしまう。
せめて顔が見えたならばそれも解るのかもしれないが…とは、ある意味非常に解りやすい思考回路、理由付けといえるだろう。
つまり、とてつもなく美人ならジョミーがこの状態になってしまっても仕方がないというわけである。

果たして、彼等の想像はある意味では当たった事となる。
すぐ目の前までやってきた彼女の姿は。
少しだけ持ち上がった傘の隙間から見えた彼女の容貌は。
まさしく心囚われるほど奇麗なものだったのだから。

夜の闇を写し取ったかのように曇りのない瞳に、背を覆う長く艶やかな黒髪。
スッと通った鼻筋と桜色の形よい唇。
日に焼ける事を知らない透き通るような白い肌。
神が愛し造形したとして思えない、整った――整いすぎた貌に優美な肢体。

「すっげー。何、あれ。あんなのあり?」
「めちゃくちゃキレーじゃん」
「うちの生徒会長と副会長も凄いけど、それ以上じゃねぇ?」
「俺、あの二人を初めて見た時、これ以上はないって思ったんだけどなぁ……」
「まぁ、それだけ世の中は広いって事だよ」
「――って、何でいきなり悟ったような事言ってんだよ、お前」

一斉に笑いがはじける。
散々すれ違った女性への賞賛を繰り返していた彼らの会話にもジョミーだけは参加しない。
彼はすれ違う際もすれ違ってからも、ただ固まったように彼女の姿を追いかけていた。
そして。

「―――ごめん、皆。ちょっとヤボ用を思い出したから、今日はここで別れるよ」
「はっ!? 何言ってんだよ?」
「そうだよ。今日は新しく出来た店に行こうって言い出したのはお前だろ?」
「うん。そうだけど。でも、ごめん。本当にごめん。店はまた今度っ」

驚き呆れる友人達に、顔の前で大げさに手を合わせると、ジョミーは一目散に駆け出した。
背中に友人達のブーイングが投げられるが、今のジョミーにはそれすらも聞こえていなかった。
ただ、とにかく彼女を追いかけ捕まえねばと。
彼女が自分の知る“彼女”――本当はそんな必要などどこにもないくらい確信していたのだが――確認しなければと。
ただ、それだけで。
人ごみをかき分け、ひたすらに彼女の背中を見出そうと駆けて行った。

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