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日々の戯言など
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前回に引き続き、『CLOCK ZERO ~終焉の一秒~』の夢小説…の1部分。

設定は多少違っているのだが(細かいところなので言わなきゃ分からない)、状況的には前回よりも前。

10年前と10年後の夢ヒロインが喋ってるという割とアレな状況。




「……撫子ね?」
「え……」
「だから、撫子なのでしょう? その“ターゲット”とやらは」
「良く分かったわね…というのは失礼かしら」
「そうね、失礼だわ。そもそも、彼がそこまで思いつめてしまうなら、彼女の事以外にありえない」
「“この世界”では違うのだとは、やっぱり思わないのね」
「『私』がすぐ目の前にいるのに?」

小学生と言う年齢に似合わぬ大人びた――全てを悟ったかのような笑みを浮かべる過去の『私』に、私も苦く笑みを零す。
私は『私』――『過去の私』のこんなところが好きではなかったのだと思い出す。
彼とはまた違った意味で大人びた、『私』が。一つの感情のみ、それに関係する全てにのみ、悟ってしまっている『私』が。
そんな私の思いに気付いているのかいないのか、あくまでもマイペースに話を続ける10年前の『私』。

「でも」
「もう手遅れ、でしょうね」
「ええ。近くにいるだけの私でさえこうしてこちらの世界に接触できてしまうくらいなのだから」
「『彼女』への量子変化は最終段階を迎えていると考えるべきね」
「なら、どうする?」
「止められるなら止めたいけれど……」

顎に手を当て考え込む。
それに対して『私』も大きく溜息をついて。

「こちらの彼女を目覚めさせる為だけに、あちらの世界の『彼女』を…全てを犠牲にして良いはずがないものね」

とは言え、既に最終段階にまで進んでしまっている変化を今更止める事は難しい。
変に別から力を加えてしまうよりも、いっその事、こちらへの転送を完了させてしまった方が安全だろう。
その上で今度はこちらから働きかけて『彼女』をあちらへと戻してあげれば良い。

「でもその作戦。彼女が彼の元にある限りは難しいんじゃない?」
「あぁ、それなら大丈夫。彼女の奪還は既に成功しているわ。現在保有しているのは別の組織よ」
「組織……。それ、信用できるの?」
「信用してもらうしかない、としか言えないわ。最も、組織は、彼女が彼のアキレスの踵だと思っているから、要求に対する人質として使うつもりのようだけれど」
「目の付け所は悪くないわね、一応。でもそれって誰からの情報?」
「それを訊くの?」

問えば、軽く肩を竦める事で返された。まるで大人のような反応。
しかも、分かっていてあえて訊いてきたのだ。全くもって、10年前の『私』というのは可愛げがない。
……それすらも、今更ではあるが。

「じゃあ、私はこのまま見てみぬ振りをするわ。ただ、一つ気になるのは、こちらへと『彼女』を転送する際に起こすだろう『時の停滞』についてだけれど……」
「それも心配いらない。私の方で対応策を用意してあるから。『彼女』を帰す時には一緒に渡してあげられるはずよ」
「手際が良いわね」
「計画が持ち上がって結構経つもの。私だって色々と考えるわ」
「そうね。だからこそ彼の傍を離れたのでしょうし」


「そうでなければ、私が彼の傍を離れるなんて、ありえないもの」


独り言のように続けられたそれに、私は思わず瞳を伏せた。
離れなくてもすむなら離れたくはなかった。
けれど、どうしても今の彼の行動が見過ごせなくて。


“10年前の世界から『彼女』をつれてくる”


そうなれば、あの世界が――あの世界で生きている『彼女』がどうなるか理解しているはずなのに。奪われた事を嘆き悲しんだからこその計画。
奪った相手を憎んでいた彼が、彼自身が、10年前の『彼女』を奪おうとしているのだ。『彼女』を大切にしている人達から。『彼女』自身からも。
だからこそ、賛同できなかった。
それに。


「私が傍にいても、彼にとっては何の意味もないから……」


小さく呟く。
口元に自然と浮かぶのは諦めの笑み。
過去とは言え、『私』に対してそれを隠すつもりはない。と言うか、隠す必要がない。
年数を経て重みは増しているかもしれないが、過去の『私』だって少なからず感じているはずだ。既に、もう。

「……でも流石に驚いたわ。まさか本当に神賀先生が“そう”だったなんて」
「神賀……? あぁ、そういえばそちらでは『神賀旭』と名乗っているんだったわね」

私の様子に少し眉を潜めては見せたものの、気に留めた風もなく、別の話題を振ってくる。
それにホッとしつつ、こちらも話をあわせる。

「そうよ。神賀旭。しかも撫子のクラスの担任!」
「担任? ……そこまで画策したのかしら」
「したんでしょ。そうでなければ、幾らなんでも都合が良すぎるもの」
「そうね。でも、彼、教師としてはどうなの?」
「撫子達に聞いた話ではとても良い先生みたいよ? 優しく穏やかで教え方も上手い。生徒の悩みとかも真剣に話を聞いてくれるんですって。生徒達の人気も高いみたい」
「まぁ、納得といえば納得ね。元々、人当たりは良いし。頭が良い人って自分がわかってしまうが故に教え方が下手な人が多いのだけれど、彼はそういうタイプじゃないし」

世界が歪んでしまうまでは、こちらの世界でも同様だった。
子供の頃から人気者だった彼。
研究についても質問には丁寧に受け答えをするし、面倒見も良く、部下への指導も然り。
海棠グループという大財閥の御曹司でありながら、それを鼻に掛ける事がなく、色々な人に慕われていた。
であるならば、確かに『私』の言う通り、生徒達にも大層慕われている事だろう。

「因みに、私が驚いたのは、神賀先生が元凶だったって事ではないの」
「?」
「学校で最初に先生に会った時にね、間違えたの」
「間違えた?」
「そう。……鷹斗と」
「年齢も何もかも違うのに?」
「そうね。でも理屈じゃなくてね。ただ本当にそう感じたの。感じてから相手をきちんと確認して、ちょっと混乱しちゃった。私は確かに神賀旭を“鷹斗”だと認識しているのに、見た目とかが全然違ってるんだもの。でもそこで自分の感覚を肯定しちゃうと、今まで一緒に過ごしてきた現在小学生の“鷹斗”は一体何なんだって事になるし。だから」
「勘違いだ、と言う事にした?」
「ええ。一応、ね」

何と言うか…我ながら素晴らしい感覚だと感心してしまう。
いや、これは多分に対象が“鷹斗”だったから発揮されたものだろう。
それ故に“間違えなかった”。

「結局のところ、実際に“鷹斗”だったわけだから、勘違いだと自分に言い聞かせる必要はなかったのよね。でも、本当の名前を呼ばれた時の神賀先生はかなりビックリしていたみたい。呆然としてた、かな?」
「してた?」
「してた。だから余計に私も混乱したのよね」
「そう。それは何だかちょっと面白いわね」
「うん」

顔を見合わせてクスクスと笑う。


その内、目の前にいる『私』の姿が薄れてきているのに気付いた。
どうやら邂逅は終わりに近づいているようだ。
『私』もそれを認識したのだろう。
最後にとても真剣な顔をして私に約束させた。


「絶対の絶対に、無事に『彼女』を――『撫子』を私達の元へ帰してね」
「ええ、約束するわ。必ず『彼女』を貴方達の元へ帰す」
「絶対よ?」
「絶対に」



約束、するわ。
例えあの人を悲しませる事になっても。
必ず。
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